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米国のシェールガス大増産、ドル高・円安要因との見方
2012年 01月 27日 18:07 JST

[東京 27日 ロイター] 新型天然ガスとして期待されるシェールガスが米国経済のけん引役となり、ドル高・円安要因にもなり得るとの見方が一部市場関係者の間で浮上しつつある。米国が大増産を進めることで中東産原油の輸入が減少、エネルギー自給率が高まることが経常収支の改善につながるとの連想からだ。

<米、LNG純輸出国へ>

シェールガスは地中の岩盤層に含まれる新型天然ガス。岩盤に大きな割れ目を作って採掘する技術が2000年代に確立され、生産が増えた。米エネルギー省によると、2010年には米国国内で生産される天然ガスの23%がシェールガスとなり、35年には49%まで上昇する見通し。米国は国防上の理由で国内産エネルギー資源の輸出を原則禁じてきたが、シェールガス液化天然ガス(LNG)の形で輸出する方針。エネルギー省の試算では、米国は2016年にLNGの純輸出国に転じ、21年には天然ガス全体でも純輸出国になる見通し。

米国ではシェールガスの登場で天然ガス価格が100万BTU(英国熱量単位)当たり2.5ドル台とピーク時から8割程度下落している。「生産コストは100万BUT当たり3ドルでコスト割れとなっているが、原油価格の高止まりで副産物のシェールオイルの収益性が高く、増産が続いている」(石油天然ガス・金属鉱物資源機構=JOGMEC=の石井彰特別顧問)。

米国は失業率が低下したとはいえ8%台半ばにとどまり、雇用創出産業としてシェールガス開発に期待が集まる。オバマ大統領は26日、遊説先のラスベガスで「われわれの足元には、米国を100年近く支えられるほどの天然ガスが埋蔵されている」、「それを開発すれば10年間で60万人超の雇用創出にもつながる」などと述べた。

一方、「石油関連の輸入は米国の貿易収支上影響が大きく、今後の輸入激減で大幅な収支改善につながる」(JOGMECの石井氏)とみられる。岩田一政・日本経済研究センター理事長(元日銀副総裁)は20日の講演で、2012年の世界経済は欧州ソブリン危機が破局的に展開しないならば、シェールガス開発を軸とした米国経済が中国とともにけん引役になると指摘。米国のエネルギー自給率が高まれば、「経常収支の改善効果もありドルを下支えする」との見方を示した。政府・日銀関係者の一部からも同様の見解が聞かれる。

<米経済の強さがドル高要因にも>

天然ガス価格は契約形態によって大幅に異なるものの、米国内の100万BTU2.5ドルという水準は、日本の電力会社によるLNGのスポット契約価格17─18ドル(2011年末時点)などと比べ、破格の安さだ。エネルギー価格下落は米国の産業競争力を高める公算が大きく、「米国シェールガス開発が立ち上がってくれば景気にも好影響が出る」(日揮(1963.T: 株価, ニュース, レポート)の重久吉弘グループ代表)とみられる。

また、「中東原油輸入の減少で国防関連予算を減らせることができ、米経済の強さにつながる。ひいてはドル高要因にもなり得る」(伊藤忠商事経済研究所の丸山義正主任研究員)。

自給率向上で対イラン強硬策の可能性>

もっとも、シェールガス開発の実現は不確実性も多い。採掘では岩盤層を破砕するために大量の水を使い、採掘時に使う化学物質による地下水汚染など環境破壊への批判があり、開発の障害となり得る。為替への影響も、「理論的にはドル高要因になり得るが、さらなる米金融緩和観測もあり、仮定を前提とした話」(米投資銀行大手)とみるべきのようだ。

さらにエネルギー業界関係者が懸念しているのが、地政学的リスク。「米国のエネルギー自給率が高まり、中東に気兼ねする必要がないと米議会関係者が誤解し、イランなどに対して強硬策に出れば原油価格が急騰する」(JOGMECの石井氏)ため、世界経済のかく乱要因ともなる。いずれにしろ、米国のシェールガス開発が同国のエネルギー・防衛政策を通じ日本にさまざまな影響を与えることは必至のようだ。

(ロイターニュース 竹本能文、取材協力 大林優香:編集 山川薫)